リーマン『幾何学の基礎をなす仮説について』ちくま学芸文庫 (2013)

幾何学の基礎をなす仮説について (ちくま学芸文庫)

『この翻訳は日米開戦を目前に控え,いつ死ぬか判らなかった,私の絶望的な青春の一つの燃焼であった』(訳者・菅原正巳)

  • 幾何学においては,空間の概念,および空間における幾何学構成に必要なる最初の基礎概念を,なにか与えられたものとして仮定している.
  • これらの仮定の間の関係はその際不明のままに残されて,それらの結合がいったい必要なのか,またどの程度まで必要なのか,なお先験的にそれが可能なのかわからない.
    ユークリッドから,例えば近代の最も有名な幾何学の研究者であるルジャンドルに至るまで,数学者のみならずそれを問題にした哲学者も,この不明瞭さを闡明するに至らなかった.不明瞭さの原因はじつに「何重にも拡がったもの」という一般概念(その中に空間の量も含まれる)が,全く研究されなかったことにあった.
  • 測れないほど大きい場合や小さい場合に,それを拡張できるかどうかについてはなお考慮の余地がある.
  • 位置の決定に無限個,または連続多様体を成すほど多くの数値の決定が必要であるような多様体も存在する.
  • 測れぬほど小さい場合の空間の量的関係に関する問題は重要である.
  • 剛体と光線の概念は,無限小においては適用されぬように思われる.したがって無限小部分における空間の量的関係が幾何学の仮定に従わないことはおおいに考えられることであるし,そうすることによって現象がより簡単に説明されるならば,実際にそう考えなければならない.
  • 空間の基礎をなす実在的なものが孤立した多様体をつくるか,または量的関係の基礎を空間以外に,物体間に働く結合力に求めなければならない.