堀内昶「核子が作る有限量子多体系」岩波書店 (2004)
- 安定核だけを見ていたのでは原子核はわからない.
- 核子はフェルミオン.
- 核力の特徴は,強い状態依存性(スピン角運動量と軌道角運動量に),強い短距離斥力,強いテンソル力(スピン依存の力).
- 多体系のシュレーディンガー方程式の十分な精度の数値解のことを厳密解と呼んでいる.
- 原子核が実験観測される密度で安定して存在しているのは,強いテンソル力によるところが大きい.
- 殻模型(平均場描像)は,かなり軽い原子核を除いて,原子核の基底状態と低い励起エネルギーの状態(これらは量子効果が極めて強い状態である)においてよい近似である.
- クラスター模型(分子模型)は,クラスターとよばれる小さい原子核と核子が結合して原子核全体がつくられるとする.
- 殻模型,クラスター模型が同じ物理量の観測値を再現する場合がある.その場合さらに進んだ検討が必要.
- 軽い原子核に対する第一原理計算により,考えている現象について複数の模型のうちどれが適切かを議論できる.
- 原子核の世界の研究には,核子多体系としての原子核の研究とクォーク多体系としてのサブアトミック物質の研究がある.
- 原子核は液滴のようなもの.密度の飽和性と結合エネルギーの飽和性より.
- 平均場描像では,核子の核内での平均自由行程が核直径より大きい.これは巨視的液体の性質に反する.
- 不安定核では密度の飽和性がなりたたない.
- 無限質量数極限をとって核物質を考える理由は,物性物理と共通の基盤に立てることと,中性子星の存在.
- 核物質の硬さは未解決問題.超新星爆発の問題で重要.
- 核物質は液体のようなもの.ならば液相-気相の相転移が期待されるが,実験結果は,有限多体系なので相転移がぼやける.
- 多くの原子核の基底状態では,2つの中性子,2つの陽子が残留相互作用のうちの対相関によってクーパー対をつくって超伝導状態になっているが,超伝導相-通常相の相転移もぼやけている.
- 核子が平均ポテンシャルのもとにあると仮定すると,ポテンシャルの空間的有限性によって殻構造(離散的エネルギー準位)が帰結し,殻構造が魔法数を生む.
- 平均ポテンシャルと核子の波動関数は無撞着であることが要請される(Hartree-Fock).
- 中性子は陽子+電子+反電子ニュートリノにベータ崩壊する.
- 陽子過剰核では陽子が中性子+陽電子+電子ニュートリノにベータ崩壊することが可能.
- 中性子過剰核の限界(ドリップライン)に近い原子核では,トンネル効果により中性子の密度分布が広がる(中性子ハロー).陽子の密度分布がほぼ0の領域にまで(中性子スキン).
- 原子核の平均ポテンシャルはきわめて動力学的.
- 殻構造・魔法数は金属原子クラスターにもあり,原子核と同じ魔法数も現れる.
- 原子核の振動――単極子・双極子・四重極.
- 単極子型は膨張収縮.
- 双極子型は陽子群と中性子群の重心のずれの振動.
- 流体の運動としての振動の記述.
- 振動にはスピン,アイソスピンの自由度も絡む.
- 量子力学では空間的変形が回転の前提.
- 対相関を考慮すると回転準位の実験値が再現できる.超伝導状態の証拠.
- 安定核では中性子群と陽子群は同じように変形するが,いくつかの不安定核では中性子群と陽子群の変形が大きく異なる可能性がある.