友田修司「はじめての分子軌道法」講談社 (2008)

はじめての分子軌道法 軌道概念からのアプローチ (KS化学専門書)
「フロンティア軌道論で化学を考える」と重なるところも多いが,この本も熱い.

はっきり言ってしまえば,量子化学が未発達な時代に分子を理解するために考えだされたツールがボンドであり,一定の公理(水素が1価,炭素が4価など)のもとに編み出されたパラダイム原子価結合法,VB法である.ほんとうは存在しないボンドを使って考えるのだから限界がある.その限界を乗り越えるため,さまざまな仮定を創作し,多数の共鳴構造を使って電子の非局在化傾向を表現しなければならなかった.その公理は第2周期元素の化学から生まれたので,高周期元素が示す”異常な現象”の説明には役立たなかった.その結果,しばしば結合論の公理に矛盾が生じ,その矛盾が「超原子価」「3中心2電子結合」などの例外的な現象として記述されてきたのである.このような新奇な概念によって矛盾が見事に処理されてきた,というのが現代化学の現実である.もともと存在しないボンドを仮想して出発した概念だから無理があったのは当然といえば当然である.

http://d.hatena.ne.jp/yoshitake-h/20090924