向きと積分

ベクトル解析をやっていてもっとも混乱するのは,線積分・面積分における曲線・曲面の向きの問題だろう.それは,積分には密度の積分微分形式の積分の2つの系列がある,ということに由来している.
そもそも1変数の場合に,
上の関数 に対し,密度の積分として

のような記号を導入せず, として,微分形式の積分

で代用してしまっているのが混乱のはじまりだ.
積分の定義を区分求積法で与えるならば,これは密度の積分である.となると,微分積分学の基本定理は,
密度の積分微分形式の積分=原始関数の変化
という2つの等式を含んでいるわけだが,記号を導入しないため,1つめの等式の印象が薄いのだ.
それに加えて,最初に習うときには計算に重きが置かれるため,原始関数の変化が定積分の定義であるかのように受け止められている.その結果,1変数では,実は微分形式の積分の方が主流になっている.

これが重積分になると,密度の積分の方が主流になるが,やはり

のような密度の積分の記号を導入せず

と書いてしまっている.

つまり,1変数では微分形式の積分を,多変数では密度の積分を主に考えているのに,記号による区別がないためそのねじれが隠れてしまっているのだ.