東方の博士とヨブの友人

  • 東方の博士たちの謎.
    • 博士たちとは誰か?
    • 三つの贈物の意味は?
    • なぜヘロデを訪ねたのか?
  • 福音書記者が公生涯以前のイエスについての断片的伝承から物語を編んだとき,自分の想像力のみに頼るのではなく,旧約聖書の物語のモチーフを下敷きにしたと推定する.
    • マタイ・ルカの荒野の誘惑の記事のモチーフはバラクとバラムの物語だと考えられる.
  • マタイの降誕物語,東方の博士たちの訪問の記事の場合,旧約聖書で東方を舞台としている物語と言えばヨブ記.東方の賢者たちであるヨブの友人たちが東方の博士たちのモデルではなかったか.
  • 博士たちの持参した捧げ物は黄金・乳香・没薬の三つ.ヨブの友人は三人.
    • 第一の友人エリファズの名前の意味は『神は純金』.
    • イザヤ60:6,ヨブ記では掠奪者であるシェバ人が『黄金と乳香』を携えてくる.シュア人ビルダドの『シュア』はアブラハムと側女ケトラの子.『シェバ』は『シュア』の兄の子.アブラハムはケトラの子らに『贈物を与え』『東方に』移住させた.(創25:1-6)
    • ウリヤの妻=ソロモンの母の名は,バト・シェバ(シェバの娘,サムエル下)またはバト・シュア(シュアの娘,歴代誌上).
    • 没薬はエジプト人に喜ばれた品.ミイラ作りに用いた.創世記37:25,43:11では,これからエジプトに行く人たちが持参している.
  • 博士たちはヘロデ大王を訪ねた.ヘロデの父アンティパトロスはエサウの子孫といわれるイドマヤ(エドム)人.ヘロデの母キュプロスはアラブ人.
    • ヨブの名に似たヨバブというエドムの王がいる.エリファズはエサウの子の名.その子がテマン.
  • 第三の友人ナアマ人ツォファルについてはよくわからない.名はモアブ王バラクの父の名ツィフォルに似る.ヨブ記のサタンが荒野の誘惑の記事につながる.
  • 東方の博士たちは星を見てやってきた.ヨブ記にも星座に関する記載がある.
  • 友人たちに対してヨブは最初に,自らの誕生を嘆く.これがイエスの誕生に重なる.また,生まれてすぐに死ねばよかったとも言う.これはヘロデによる幼児殺しに重なる.
    • 列王上11:14以下.ダビデの将軍ヨアブがエドムの男子を皆殺しにする.ハダデがエジプトに逃れ,ダビデの死後ソロモンに反逆する.エドム人ヘロデがダビデの末裔である幼児を皆殺しにしたのは,この一件の復讐劇とも読める.
    • マタイ1:23に引用されているイザヤ7:14の『男の子』は『ベン』,小さく弱い存在としての『子』.ヨブ3:3の『男の子』は『ゲベル』,勇ましく偉大な男.ヨブ40:7,神がヨブに呼び掛けた言葉『男らしく』と同根.『王として生まれた方』(マタイ2:2)に通ずる.博士たちは生まれた『ゲベル』を拝みに来た.しかし実際に生まれたのは『ベン』だった.
    • エツヨン・ゲベル(男の背骨)はエドムの港町.列王上9:26.
    • ヨブの息子たちの宴会(1:4)は誕生日のお祝いか.口語訳「自分の日に」.災いは長男の誕生日か(1:13).
    • ヨブ3:9『星も光を失うように』とマタイ『星が先だって進み幼子のいる場所の上にとどまった』の対照.
  • エドムは賢者の地として知られていた(オバデヤ8,エレミヤ49:7).エドムは栄えていたが滅亡が予言される(オバデヤ,エレミヤ49:7-22).
    • ヨブ記の背後にはエドムの衰退がある.ヨブを襲った第一の災い,シェバ人・カルデヤ人による略奪と天変地異は,共同体全体を襲ったものとも考えられる.
    • エドムの衰退とは,エドムの支配層・富裕層の没落のことで,エドム人が消滅したわけではない.
    • エドム衰退後、エドム人とアラブ人が共存していたことを,テマン人エリファズとシュア人ビルダドの訪問が示唆している.
    • また,一度は没落した旧支配層・富裕層の中には,新体制に適応して復興した者もいたことであろう.ヨブのように.
    • 復興後のヨブ家.3人の娘たちも財産を相続している.社会の変化を表している?
  • ヨブ31章,黄金も天体も偶像としないヨブ.
  • マタイ伝山上の垂訓は,内面倫理や自然観においてヨブ記との共通性がある.