友田修司「フロンティア軌道論で化学を考える」講談社 (2007)

フロンティア軌道論で化学を考える (KS化学専門書)
成城の三省堂で購入.
原子価結合法から分子軌道法への転換は,天動説から地動説への転換を思わせる.

水素原子の動径関数は Schrödinger 方程式の厳密解として得られるが,多電子原子系では波動方程式が解けないので近似関数を使わざるを得ない.分子の挙動を支配しているのは主に球面調和関数なので,動径関数は近似関数を使っても現象の本質にはあまり大きな影響を与えない.

原子の世界は基本的に球面調和関数の世界であると言っても言い過ぎではない.

水素原子の1s軌道は,炭素の2つの軌道準位に挟まれている.これが炭素と水素という2つの元素を基本に成立する有機化学という豊穣な学問分野が成立する根源的理由になっている.もう一つの理由は,窒素と酸素の外殻軌道準位が炭素や水素の軌道準位に比較的近いことである.ハロゲン原子も同様である.リン,硫黄,セレンの軌道準位も -10.97〜-23.92eV の間にあり炭素の軌道準位にかなり近い.
次章で詳しく述べるが,適度に安定な分子を形成するための条件として,
(1) 軌道準位がアルカリ金属元素のように高くなく適度に低いこと
(2) 原子軌道どうしの軌道準位が近く相互作用が有利であること
という二つの条件が必要である.上記の原子はこの条件を満たしている.これが多様な共有結合をもつ安定分子が形成され,有機化学という豊かな学問分野が成立したもう一つの理由である.
生命体がこれらの元素を採用して生命活動を営んでいることも同様の理由による.

電子はなるべく分子全体に非局在化してエネルギー的に安定化しようとする.

希ガスが不活性な原因は閉殻電子配置をとり,オクテット則を満たすためであると説明されているが,本質はもっと奥深いところにある.希ガスは化学反応生起条件にことごとく違反している.これが希ガスの反応性低下の原因である.