「闘いの世紀を生きた数学者・上 ローラン・シュヴァルツ自伝」シュプリンガー・ジャパン (2006)

闘いの世紀を生きた数学者 上 - ローラン・シュヴァルツ自伝

ある種の定理については,わたしは明瞭に記憶していて,よどみなく説明できるが,何度繰り返しても証明を忘れる定理もある.専門課程の基礎的学科で教えている定理のなかにも,そのような苦手なものがある.そのような定理について教えるときには前もって注意深く用意しなければならない.たとえばハーン・バナッハの定理はわたしのなかにすっかり刻み込まれ,寝ながらでも証明できるほどであるが,バナッハの閉グラフについての定理はいつもわたしには難しく感じられ,授業で話す前に自分なりに証明してみてもなお困難さは消えない.

その後彼はテンソル積の位相に関する基礎的な定理を次々と見つけ1952年末にレジュメを発表した.1953年初めには学位論文は完全に書き上げられていた.三百ページ以上の記念碑的な作品で第一級の傑作だった.わたしは論文審査の時期をその年の終わりに設定した.そのために,論文を読み,学び理解しなければならない.どの部分をとっても難しく深淵な内容だった.読了するまでたっぷり六ヶ月かかった.大変な仕事だったが,それは至上の喜びの月日だった! 定理の記述は何キロメートルも長いように思われた.なにしろ彼は何一つ省略しないのである.