数学要論A

3.2 選択公理とツオルンの補題

Zorn補題 任意の鎖(=全順序部分集合)が上界をもつような順序集合は,極大元をもつ.

  1. 証明には選択公理を用いる.
    • 逆に,Zorn補題から選択公理を導くことができる.Zorn補題の使い方はワンパターンで,この場合も例外ではない.
  2. (X,\leq ) は順序集合で,任意の鎖が上界をもつとする.極大元が存在しないと仮定して矛盾を導く.
  3. 任意の鎖 A に対し,仮定および選択公理により,A の上界 x_A\in X-A を選んでおく.

  4. 鎖あるいは鎖の族に対し,それより大きい鎖をつくる方法として,つぎの2つがある.
    • 包含関係について全順序である鎖の族 \mathcal{C} に対し,\bigcup\mathcal{C} も鎖.
    • A に対し,A\cup\{x_A\} も鎖.
  5. \mathcal{L}X の鎖全体の集合とし,その部分集合で,空集合を元とし,上の2つの操作に関して閉じているものを考える.
    すなわち,\mathcal{T}\subset \mathcal{L} で次の3条件をみたすものを,とよぶ.
    • (a) \phi \in \mathcal{T}
    • (b) 包含関係について全順序である \mathcal{T} の部分集合 \mathcal{C} に対し,\bigcup \mathcal{C}\in \mathcal{T}
    • (c) A\in \mathcal{T} ならば A\cup\{x_A\}\in \mathcal{T}.
  6. 塔は包含関係について全順序にならない.
    もしなるとしたら,(b) より \bigcup \mathcal{T}\in \mathcal{T} は包含関係に関する \mathcal{T} の最大元となり,(c) に矛盾する.
  7. \mathcal{L} は塔.よって塔は存在する.
  8. すべての塔の交わり \mathcal{T}_0 は塔,よってこれは最小の塔になる.
  9. \mathcal{T}_0 が包含関係について全順序であることがいえれば矛盾が導かれる.


  10. \mathcal{U}=\{A\in \mathcal{T}_0\mid \forall B\in \mathcal{T}_0;A\subset B\quad\mathrm{or}\quad B\subset A\}
    とおく.\mathcal{U} が塔であることを示せば,\mathcal{T}_0 の最小性より \mathcal{U}=\mathcal{T}_0.よって \mathcal{T}_0 が全順序であることがいえる.
  11. \mathcal{U} が塔であること の証明.
    (a) (b) をみたすことは容易.(c) を示す.
    A\in \mathcal{U} に対し,
     \mathcal{U}_A=\{B\in \mathcal{T}_0\mid B\subset A\quad\mathrm{or}\quad A\cup\{x_A\}\subset B\}
    とおく.
    A,\;A\cup\{x_A\}\in\mathcal{U}_A に注意.

    \mathcal{U}_A が塔であることを示せば,\mathcal{T}_0 の最小性より \mathcal{U}_A=\mathcal{T}_0 となり,
    \forall B\in \mathcal{T}_0;\quad B\subset A\subset A\cup\{x_A\}\quad \mathrm{or} \quad A\cup\{x_A\}\subset B.
    ゆえに A\cup\{x_A\}\in \mathcal{U}.
    \mathcal{U} は (c) をみたす.

  12. \mathcal{U}_A が塔であること の証明.
    (a) (b) をみたすことは容易.(c) を示す.
    B\in \mathcal{U}_A に対し,B\subset A または A\cup\{x_A\}\subset B.
    • A\cup\{x_A\}\subset B ならば,A\cup\{x_A\}\subset B\subset B\cup\{x_B\} より,B\cup\{x_B\}\in \mathcal{U}_A.
    • B\subset A ならば,A\in \mathcal{U} より,A\subset B\cup\{x_B\} または B\cup\{x_B\}\subset A.
      • B\cup\{x_B\}\subset A ならば B\cup\{x_B\}\in \mathcal{U}_A.
      • A\subset B\cup\{x_B\} ならば B\subset A\subset B\cup\{x_B\}.
        ゆえに,A=B または A=B\cup\{x_B\}.
        いずれの場合も B\cup\{x_B\}\in \mathcal{U}_A. //